*

みんなのための精神病小話2-幻聴

seisin2

地方の交通機関を使っていると、よく障がいを持った方をみかけます。毎日のように、一人でごにょごにょ喋りながら歩いている人もいます。
気味が悪いとか、滑稽だとか思われるかもしれません。しかし私は彼が多くの敵と戦っているのではないかと想像してしまいます。
私がそうだったからです。私の目の前で恐怖のあまり、ガタガタと震えていた青年のことを忘れられません。やりたくてやっているわけではなかった。しかし恥ずかしいと思う余裕もないほど、私は追い込まれていたのです。

幻覚とは幻聴、幻視、幻嗅(嗅覚の幻覚)、体感幻覚(例として、常に体を触られているような感覚がある)などの総称で、その中で私は幻聴の症状があります。
今回は幻聴について語らせていただきたいと思います。
幻聴とはどういうものか。言葉を知っていても、体験していない人にはどんな症状だかわからないでしょう。知りたいからといって身体でわかるようになってはいけません。
実際私も病気にかかる前は、幻聴がどんなものだか全く想像できませんでした。
それがもう凄い勢いで大変な症状で、例えばアパートで独り暮らしをしているとすると、隣の住人から常に悪口をいわれ、最初は、はっ、なんだそんなもん、勝手に言わせておけ言わせておけと思うのですが、昼夜飽くことなく立て続けに罵倒されているうちに、自分の自信がどんどん殺がれていき、ついには恐ろしくて部屋に居られなくなるのです。

そこまでは単に隣の住民がうるさいだけかもしれませんが、もしこれが本当に幻聴だとすると、何処に居ても延々と自分を責め立て、嘲る声が聞こえてくるのです。常にみられているかのように。そして彼は思うのです。アパートに居た頃から、隣の住人は、まるで俺をみているかのように悪口を言っていなかったか? と。
そうなると盗聴器、監視カメラがそこら中、道路にまで設置されていると思うようになり、常に幻聴が聞こえてきて、二十四時間寝ている時以外は常に神経をすり減らし、たまに幻聴に反抗してみるも、さらに勢いは増し、幻聴に対抗しているうちに独り言がとまらなくなり、電車で隣に座っている女の子が明らかに自分に対する恐怖に震えていたりして、これは違うのだと思っても何が違うのかわからず、彷徨い、八方塞がりになり、ついには幻聴かどうかの真偽もわからぬまま精神病院に叩きこまれてしまうのです。

これの対処法を、私は経験上、薬と自意識のコントロールしかないと思っています。私の通っていた学校の先生が、精神障がい者を教えていると、生徒の一人が、前の連中が俺の悪口をいっている。といいだしたので、いっそ一番前に立たせてしまえばそれはなくなるのかしら? と相談を受けたことがあります。
多分それはなくならないです。きっと彼は相当重い幻聴を背負っています。彼を一番前に立たせれば「先生、駄目です。廊下から誰かが俺の悪口をいっています」みたいなことになる可能性は高いです。仮に廊下に見張りを立てても「先生、天井から俺の悪口をいっている奴がいます!」と思う可能性は否定できません。
槍で突くわけにはいかないでしょう。
ああ……天井じゃあどうしようもないな、と諦めるしかないのです。

私は投薬治療で幻聴は抑えられました。しかし完全ではなく、入院して一か月、再び幻聴が聞こえてきたことがあります。それこそ私を殺さんばかりに「お前なんか許すわけないだろ」と憎悪に満ちた口調で責め立ててくるのです。その時は焦りました。
そういうとき、私は一冊の小説を読みました。薬の副作用で集中力が衰えていたので、本当に数行読んだだけで疲れてしまいますが、なにか高尚な文章を目にするだけで自分の世界に入り込むことができたのです。以降一か月続いた幻聴はこうして抑えることができました。もちろん薬の力が大いに助力していたのでしょうが。
自分の世界に入る。つまり自分の中に世界を作っているわけで、外部からの圧力から逃れるために自意識をコントロールしたのだと思います。
ただ、自分の世界を作るために音楽を聴いたり、テレビをみたりしても、それが逆効果になってしまう例もあります。音楽を大音量で聴いていたら、その歌詞が自分を否定する内容に聞こえるようになることがあります。テレビをみていたら、バラエティの出演者が自分を馬鹿にしているかのように聞こえることもあるのです。難しいですね。

結論からいうと、やはり状態に合った薬を飲むのと、負担にならない形で自分の世界を作るのが幻聴から逃れる早道だと思います。しかし万策尽くしても幻聴に苦しんでいる方が居ることも忘れてはならないでしょう。
神が与えた試練だとしたら残酷な話です。何故なら精神病は多くの場合、症状を抑えるだけで、治らないからです。
余談ですが、私は幻聴に関してはほとんど聴かないで済む生活をおくっています。ただ、一つだけどうしても治らない症状があります。
何か芸能人や声優などの声や仕草を一人で想像して、時に顔を微妙に動かしたときに「パントマイム上手いね」と必ず聞こえてきます。
未だに幻聴から逃げきれないと感じる瞬間です。
次回は入院について語らせていただきます。稚拙な文章をお読みいただきありがとうございました。


公開日:
最終更新日:2016/02/20

  • 佐久本庸介と申します! 山梨県からひらきこもりを掲げ、色々なことにチャレンジしていこうと思っています。第一回クランチノベルス新人賞受賞。ディスカヴァートゥエンティワンより青春ロボットドラッグカラーの空という小説を出版しております。皆様どうかよろしくお願いいたします!
PAGE TOP ↑