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みんなのための精神病小話3-入院

seisin3

私は精神病棟から退院して十年になりますが、ある患者は十一年入院してやっと出られたといっていました。私の入院期間と、そのあと過ごした十年を足してもまだ出られない、そんなことがあっていいのかと唖然としました。
十一年も閉じ込められるのは徒労です。苦行です。それでも必要なのが入院なのですが、今回はそのあり方について語らせていただきたいと思います。

私は精神病棟に二回入院した経験があるのでわかるのですが、精神科の入院は、他の入院とはだいぶ違うのです。例えるならば刑務所とかに近い気がします。その最たる理由は閉鎖病棟として、下界から隔離されているという点ですね。病棟にはしっかりと鍵がかけられていて、入院患者は許可なしに外には出られません。さらにいうと、病棟には窓がありますが、病気に絶望して身を投げようとする人が出てくるため、大抵三センチ弱、もしくは全く開かないようになっています。下界の空気はこの僅かな隙間からしか入ってこないのかと唖然としました。空調は既に病棟の空気としか思えません。そのため、入院患者は長い入院生活が終わるとき、まるで刑務所から出所したかのように、シャバの新鮮な空気に感動するのです。
あと下界から隔離された病棟の中に、更に隔離室というところがあり、症状の重大さ次第で患者はそこに入れられる可能性もあります。ややカラーリング豊かな牢屋といったところです。ある程度症状が安定していれば、数日で出られます。

私の通っている病院は安らぎ病棟を謳っていますが、精神科の入院は少々安らぎとは違うと思うのです。安らぎというものは毎日の生活が満ち足りてこそ感じるものですが、入院中に満ち足りるような気持ちになるなんて信じがたいことです。なにしろ入院中の生活が著しく暇なのですね。充実だなんてとんでもない。呆れるほど何もすることがないのです。そして時間を有意義に使うことも難しい場合が多いのです。服薬の影響で、やる気や集中力を制限されてしまい、本を読んだり、文章、絵を描いたりすることが困難になります。私の例を出すと、入院中三か月かけてようやく一冊の本を読み終えたくらいです。昔ならば三日もすれば読めてしまったのに、それこそ一ページ読んでは読み疲れて休む連続でした。漫画を読むのさえ精神力が要ります。当時、私は絵を描くのを趣味としていたのですが、何度、気を奮い立たせても全く集中できず、そのうえ入院前より画力が落ちている気がして、最終的には投げてしまいました。自分の身体の変化に空恐ろしさを感じたものです。
とはいえ、無気力感を忘れることはできないまでも、退屈を紛らわす助力になるものはいくつかあります。ラジオ、麻雀、患者との会話、などです。麻雀は面子を揃えるのが大変で、集まっても誰かが調子を崩せばお開きなので、これは病棟のメンバーによって差が出ると思います。数学の問題を解いている人もいました。
しかしそれらを駆使しても退屈地獄を抜けることは不可能でしょう。私からいわせてもらえば、安らぎ病棟というより、無気力療法病棟といったところでしょうか。なんだかんだいっても、刺激のない環境は病気を鎮める効果があるし、入院中は患者の経過をじっくりみられるので、担当医も薬の調整がしやすいのです。

患者も皆人間ですが、様々な症状があるので、入院中おかしいことをする人もみかけます。奇声をあげる人もいれば、他人の部屋で突っ伏して寝ている人。四つん這いで歩いている人。おいそれといえることではありませんが、物凄く見苦しく感じるのです。多くの人がこんなところにいたら本当に狂ってしまうと嘆くのは、そういった光景も一助しているかと思います。病棟というところは、症状を安定させて病気を治していく人だけでなく、外の世界で生きていけない人を保護するところでもあるので、わざわざ分けるわけにもいかないから、仕方のないことかもしれません。むしろそれを受け入れる強さを持てればしめたものです。

私は病棟で一生を過ごす人のことについて、詳しくはわかりません。しかし退院していく人については、当事者なのである程度はわかります。そういった方々にとって入院は無気力な状態で神経を休ませるためのものです。安定する目処がついた時に退院するのです。
精神科の入院には任意入院と、医療保護入院、その他二種類があります。医療保護入院は入院するほど症状が酷いと判断された上で、患者を本人の同意なしで入院させるものですが、任意入院の場合、本人と同意の上で入院するため、本人の意思次第でいつでも退院が可能だったりもするのです。
それでこのエッセイの前身を書いた時、医療保護入院を減らして可能な限り任意入院にして、入院も一週間程度の短期間で退院できる形にしよう、という流れがありました。地味にその流れは進んでいるようで、医療保護入院は減少の傾向にあるようです。これは薬の進歩とともに、病気が安定しやすくなったのが一因となっています。

私は三か月入院したし、他にも長い間入院する人は沢山いますが、わずか一週間で病気が調整できるのならば、気軽に入院することもできます。強制的に入院させる医療保護入院は家族に禍根も残す可能性があるので、極力減らしていく流れが望ましいでしょう。
ちなみに私は麻酔で眠らされている間に隔離室に閉じ込められたので、禍根とまでいわずとも、もっとなんとかならなかったのかと思うことがあります。それだけに今後の改善に期待したいところです。

次回は副作用について語らせていただきます。ありがとうございました!


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  • 佐久本庸介と申します! 山梨県からひらきこもりを掲げ、色々なことにチャレンジしていこうと思っています。第一回クランチノベルス新人賞受賞。ディスカヴァートゥエンティワンより青春ロボットドラッグカラーの空という小説を出版しております。皆様どうかよろしくお願いいたします!
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