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みんなのための精神病小話1

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精神病などというものは、基本的に重荷にしかなりません。五メートル後ろから死ね死ね死ねと呪いの言葉をくらったり、薬の副作用で尿管が塞がり地獄のような思いをしたり、ストレスのあまり食に走り途方もなく太ったりします。なってみたいという人が居たら馬鹿なことをいうものではないと叱るだろうし、なりそうな人が居たら無理をしないで逃げることも大事だよと助言してさしあげたいです。
私は不幸にも十九歳の頃に統合失調症を発症し、大学を中退してリハビリに励んでいました。ならない方が良いけれど、なってしまったものはしょうがないという考えもあります。
当事者としては、病気についての理解が広まると社会でも暮らしやすくなるので、ひとつ過去に書いたメンタル系コラムを改稿し、皆様がお読みになれるよう一作ずつ公開していきたいと思います。
「幻聴、入院、副作用、リハビリ、社会復帰」今後この五つのテーマを順々に扱う予定です。今回は序章ということで、有名漫画を通して精神病を語らせていただきます。

今では病気を扱った漫画もかなりの数がありますが、その中で私が感銘を受けたのは「ブラックジャックによろしく」の精神科編です。佐藤秀峰といえば、相当な有名漫画家ですが、そんな彼が精神科を扱ってくれたのが当時の私を熱い思いにさせたものです。
一方、世間ではグダグダで面白くない、という評価が多いです。それもそのはず、精神病にはいつ誰がかかってもおかしくない、といわれても実感が湧かないし、ガンのような命を食いつぶす強烈なインパクトがない。恐怖心が違うでしょう。興味も薄れる。だんだん飽きて読まなくなる。
とはいえ、当事者の私としてはやはり興味深く、展開を追っていくたびにムムウと唸ってしまいます。
そもそもこんな難しいジャンルを扱っていただいた作者様に拍手を送りたいです。こういう作品が世に出ること自体、精神病の実態が認知されはじめている証拠といえるでしょう。

ただこの漫画は病気を描いた漫画というよりは、むしろ病院体制を扱った漫画なので、全然表現できていないところ、描き足りていない場面が多いと思いました。逆によく描けているところも多々ありますが、病院体制の方を重視しているので、クレームをつけるのはお門違いかもしれません、が、あえて患者側からいわせていただきます。
四つ程良いところと悪いところがありました。悪いところからいうと、幻聴の描写がまるで足りません。
なんとか幻聴を描写しようと、ふきだしで「このキチガイ野郎!」くらいに言わせてますが、漫画ならばもっとやりようがあるはずです。
幻聴は生身の声が絶え間なく突き刺さっているわけで、漫画で描くとするならば、憎悪に満ちた人々が患者の周りを埋め尽くして、至近距離から罵声を浴びせまくる。そのくらいにやっていただきたいです。そのくらいきついのです。
次に気になったのは、副作用の概念がほとんどないことです。
私を例にあげるのならば「尿がギリギリのところでせきとめられて出ない、瞬きで強制的に目がつむる、便秘、気力がまるで湧かない、歩き方がおかしくなる、性欲が失せた、などなど……」と、酷い目にあったものです。こういう切実な悩みがこの漫画からはわからないのです。とはいえ、漫画にしにくいのであえて省いたのかもしれませんね。

では次に良いところを。
作中で障がい者同士が恋をする話がありました。これは結構精神病棟ではよくあることです。他の障がいと違って、身体は五体満足で、病室からみんなホールに集まってくるので、男女の交流もそこそこにあったりするわけです。私は縁がありませんでしたが。それはどうでもいいとして、おじいちゃんと二十代の女の子が恋仲になったという話も本当にありました。この件に限るとしても、不思議で仕方がないのは、本人たちはもちろんですが、親御さんもそれを容認しているらしいのです。こんなこともあるのかと痛感した次第です。話がそれましたね。病棟はなかなかに不思議な恋の形があったりして、その辺が作中でもよく描けていると感心したものです。

最後に、患者が退院した後の話が描かれていましたが、病棟から退院しても家の中にしかいられない状態も考えられるのです。病棟の方がまだ人と接すことができたりしていて、むしろ追いつめられてしまうことも考えられます。
そこで社会資源という言葉があります。自分が社会で生きていくうえで入り用なもの。友達、彼女、趣味、職場など全てを指します。これが退院することで一気になくなってしまう可能性もあるわけです。
薬の副作用における、気力がなくなる症状のせいで、家で黙々と有意義に過ごすこともできなかったりするのです。一日中外に出ず、何もしないで、眠くもないのに布団に潜り、おかんに全ての世話をみてもらい、どんどん人生をずたずたにしていく。そのうち再発して再入院という形はかなり多いです。
漫画はこれより大分展開がハードですが、退院しても地獄が待っているケースは十分考えられます。その部分がこの漫画は本当に上手く描いてくれているなあと感じました。

ブラックジャックによろしくについては、色々文句も書きましたが、精神病というテーマを誠実に拾っていただいた貴重な漫画だと思っています。本当にいろんな意味でこういう漫画は描きにくいと思うのです。これから今以上に精神病の実態が認知されていくことを期待します。佐藤先生にはこれからも違う作品でも頑張っていただきたいです。
今回はこのあたりで締めたいと思います。それでは皆様またお会いしましょう。


公開日:
最終更新日:2016/01/12

  • 佐久本庸介と申します! 山梨県からひらきこもりを掲げ、色々なことにチャレンジしていこうと思っています。第一回クランチノベルス新人賞受賞。ディスカヴァートゥエンティワンより青春ロボットドラッグカラーの空という小説を出版しております。皆様どうかよろしくお願いいたします!
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